第39代主将 前田博志

応援してもらえるチームを目指して

広島大学体育会ヨット部コーチ 前田博志

昨年12月より、マツダとトヨタが合弁で設立した「Mazda Toyota Manufacturing, U.S.A.(MTMUS)」に出向しており、今、この原稿はアメリカ・アラバマ州で書いています。広大ヨット部のコーチとしては、現在は練習の動画を送ってもらい、ミーティングにも参加、リモートの形でコーチングしています。

  昨年より現役のメンバーには「周りから応援してもらえる選手・チームになろう」と声をかけています。人から応援してもらうためには、どうすれば良いか。それは、まず自分が相手を応援することではないかと思っています。普段より、誰か助けが必要な人はいないか、自分ができることはないか、周りに気づくことから始めてほしいです。自分のことだけではなく、お互いをカバーしあうことで1+1が2ではなく、5にも10にもなります。良いチームになると、広大ヨット部の一員であることが誇りになります。さらにこのチームのために何かしたい、と好循環がチームの外まで広がっていくでしょう。470チーム・スナイプチームもお互い協力、応援する。チーム内での自分の順位に固執するだけでなく、広大の総合順位を上げるためにお互い応援しながら切磋琢磨する。それを見ている周りの人たちは、きっとそんな広大ヨット部を応援したくなる。そんなチームを目指してほしいです。広大ヨット部が、優秀な経験者が多く在籍する私立大学ヨット部に少しでも近づくためには、皆で協力して良いチームを作っていくしかありません。人間としての成長とセーリング技術向上は比例するものと信じています。

そもそも、なぜ「周りから応援してもらえる選手・チームになろう」という声かけを始めたのか。広大ヨット部の選手は、皆、素直で飲み込みが早く、セーリング技術もすぐ身に付きます。頭が良いので戦術の理解も早いです。しかし、全日本インカレなどの大舞台では、緊張して、力が出せていませんでした。舞い上がってしまい、適切な判断も動作もできなくなっていたのです。それは経験が少ないこともさることながら、「心が弱い」ことに起因しています。メンタルを鍛えるために、ヨット以外の生活態度も改め、個々の人間力を上げて、さらに個人のメンタルを補える団結力のある良いチームを作ろうと決めたのです。

私は、ここアラバマ州で新型車の立ち上げ準備を行っていますが、車の生産には複雑な工程があり、一人だけが頑張ってもできません。アメリカでは、それぞれの仕事の役割が明確に定められており、個人の領域は個人に任されていることが普通です。ビジネスライクでやりやすい面もありますが、担当外のことに興味がないのも事実です。その中で、「応援してもらえるチーム」を作るために、まず自分が周りのメンバーを応援することから始めました。そのためには、今、何が問題で、誰が困っているか、まず気付く必要があり、結果的に自分自身が全体像を捉えることができました。勝手に自分一人で始めたことですが、気がつくと、それは徐々に広がっていて、皆が自分のことだけではなく、周りの状況に気付くことが当たり前になっています。相手の仕事を応援し、相手から応援してもらうことで、どんどん素晴らしいチームになっていると思っています。現在、日本・アメリカ・メキシコなど言葉も文化も異なる人たちが、また開発・製造・品質・その他多くの異なる領域のメンバーが、良い車を作るため、互いにカバーをしあうことで、驚くほどスムーズにプロジェクトは進んでいます。その良い雰囲気は社外にも広がり、取引先にも応援の輪が広がりつつあります。

話は広大ヨット部に戻りますが、昨年、応援したくなる良いチームになってきている、と実感したいくつかのことがありました。まずは練習前にハーバー内でゴミ拾いを続けてくれていること。全日本インカレ会場では、広大のバースの近くにあったゴミ箱のゴミが溢れていたのを、毎日片付けてくれていた複数のメンバーがいたこと。どちらも私が直接目撃したわけではありませんが、見ていた人から「広大の学生さんはすごいね」と言っていただきました。全日本インカレのときに、選手の出艇を応援しようと、突堤の一番いい場所に早くから陣取ってくれていたメンバー、広大全艇が着艇するまで部旗を振り続けてくれたメンバーもいました。突堤になびく部旗、湾内に響くエール、怒濤の譜、鳥肌がたちました。広大ヨット部OBであることを本当に誇りに思いました。こういったすべてのことが相まって、全日本インカレでスナイプ級が7位となり、全日本インカレの出場枠の2枠目を中国地方に追加で獲得できたと思っています。(現在、各地方の出場枠は前年の全日本インカレの成績によって決定)

  昭和から平成を経て令和になりましたが、素直で一生懸命にヨットに取り組んでいる選手たちは、私たちが現役のときとまったく同じです。この選手たちが、私たちと同じように、広大ヨット部に誇りを持ち、自分たちに自信を持てるよう、コーチとして、OBとして全力で応援していきたいと思います。皆様も応援よろしくお願いします。