第15代 沖田勇三

2018ハンザワールドからの贈り物

38年入学 沖田勇三

ハンザとの出会い

まず、ハンザヨット(以下ハンザ)との出会いから述べてみたいと思います。

2026年岡山県連(高野洋志、さやか夫妻)よりハンザを紹介される。

ハンザは転覆しにくい構造で、座ったまま操縦できる。子供もお年寄りも車椅子に乗る人も楽しめる。2007年ハンザの誕生の地、オーストラリアへ障がい者ヨットレースに視察を兼ねて参加。こんな世界があったのか、と。車いすの選手たちは底抜けに明るかった。ひとたびハンザに乗ると、自由奔放にかじと帆を操ってみせる。ボランティアのやさしさも印象的だった。

 この光景を広島でも見たいー。連盟の山根恒弘会長、渡貞雄副会長に相談すると、英断がくだされた。早速、障がい者中心のチーム「あびの会」を発足。試乗会を重ね、仲間を集めた。2年目から地元大会も開催。平和への願いを込めて。「ひろしまピースカップ」と銘打った。思えばこれが、連盟の「変身」の始まりだったかもしれない。

 活動はどんどん広がった。海外遠征では障害のあるジュニア選手も躍動した。地元では2度(2012,2015年)の国際親善交流大会を開き、ロンドン、リオのメダリスト ダニエル・ジェラード・フィッツギボンを招待。2018年ハンザレースでは最高級のハンザクラスワールド世界大会を開催し参加国24ケ国、選手195名達が参加。2022年ハンザクラスアジアパシフィックチャンピオンシップ&パラワールドチャンピオンシップ広島大会は参加13カ国、選手140名参加。そして今、ハンザは約70艇に増えた。各種団体、企業の支援のお蔭だ。活動拠点の広島観音マリーナでは県がレース観戦できるバルコニー付きの艇庫が完成した。障害の有無に関係なく競いたたえ合う。ハンザはインクルーシブな世界をかなえる道具だと、ハンザ考案者クリス・ミッチェル氏は言う。本当にそうだ。インクルーシブの最適なスポーツはハンザだと確信する。是非、ハンザに乗っていただきたい。広島県セーリング連盟はハンザと出会って大変身した。今から、さらなる変身が必要であろう。

 先達の渡邉文人先輩がおられたら何と言われるだろうか。独特の喉ごえで、目標が低すぎる!と激怒され「諸君!高く理想を持ち闊歩せよ。」と声高らかに叫ばれるだろう。

私はこれからもハンザを生涯のライフワークとして生きていきたい。

現役諸君!高く理想を持ち一所懸命やれば必ず変身した姿を見ることができる。頑張れ!

2018ハンザワールドを終えて

大会が終わり、今、あの大会は何だったのだろうと思う。勢いよく引き受けたものの、いざやるとなると何から始めたらいいものか、準備期間2年半、自分の無力さ、能力のなさを何度味わっただろうか。今更やめるわけにもいかず、眼前の仕事をただがむしゃらにやるしかなかった。しかし、多くの人達がそれぞれの部署で作業をしてくださり、最善の仕事をしてくださったこと、大会の主旨に賛同くださり協賛してくださったこと、素晴らしいユニバーサル施設にしてくださったことで、立派な大会となりました。特に、山根会長の渾身の知力と果敢な行動のお陰だと思っています。大会を顧みて、この大会が残してくれた大切な贈り物を記してみました。

感動を与えた開会宣言と選手宣誓              

2018年10月13日16時、大和なゆたさんの、力強い開会宣言があった。

「私は、生まれつき常に介護が必要な重度の障害があります。どうして生きていけば良いか、悩み苦しんだ時にハンザに出会いました。普通の椅子にさえ座ることができない私を、ハンザは優しく包むように、海の楽しさを教えてくれました。いろいろなことにチャレンジする勇気が湧き、生きる喜びを見つけました。私の新しい人生の贈り物をハンザからいただきました。心より感謝申し上げます。この大会が沢山のひとたちに人生の贈り物があることを願って「2018ハンザクラスワールド&インターナショナルチャンピオンシップ」の開会を宣言します。」

 次に、佐々木亮君が、右手を高らかに上げ、「私たちは、どんな時もスポーツマンシップを忘れず、風が強かろうが弱かろうが雨が降ろうが降るまいが、文句を言わないのと同様に、この大会を楽しみ、安心・安全な大会にすることを誓います。」と選手宣誓をした。

600人の観衆がこの言葉とひたむきな声に感動し、目に涙が浮かんでいた。

正に、ハンザの神髄を語ってくれた。記憶に残る素晴らしい大会になると確信した。

ハンザワールド広島開催について

2015年11月、日本ハンザクラス協会貝道会長より、国際ハンザクラス協会から、2018ハンザクラスワールドを日本でやらないかとメールが来ているとの話が始まりである。

じゃあ、広島でやりますかと、気軽に言ったことから難儀が始まるのであるのですが。

2016年1月末、国際ハンザクラス協会へ開催意志表明書を英文にて提出する。3月15日に、2018ハンザクラスワールド広島開催が決定したとメールが来ました。さすれば、2016年6月にオランダのメデムブリックで開催されるハンザクラスワールドを7名で視察しに行く。大会の中日に、山根会長とオランダ領事一等書記官が「広島への参加を募るプレゼンテーション」を熱く語りました。DVDで広島を紹介しました。

まずは、協賛金を集めている間に、どんどん大きく化けていった

オランダから帰国し、本格的に準備を始める。大会に一体全体いくらかかるのか。会長の指示の下、リストを作成する。まず、最初は、広島東洋カープの松田オーナーを訪問することになる。2016年10月6日、忘れられない日となる。アジア初、日本初の障害のある人たちの大会であることを理解していただき、絶大なる協賛を頂きました。       びっくり仰天です。嬉しかったことこの上ありませんでしたし、このことが契機となり、訪問に弾みがつきました。

中国電力、マツダ、広島銀行、広島信用金庫、中国木材、中電工、もみじ銀行、中国綜合信用、村上農園、広島ガス、広島観光開発、石﨑本店、バルコム、中国新聞社、中国放送、広島テレビ、テレビ新広島、広島ホームテレビ、シモハナ物流、田中電機、広島市信用組合、リベラ、アンフィニー広島、広島ガスプロパン、広島マツダ、賀茂鶴酒造、明和運送、ダイキョウニシカワなど。ご協賛くださった企業はまだまだ多くの企業がありますが、記載することができず申し訳ありません。皆様に厚く感謝申し上げます。

この協賛集めに協力してくださった方は、永野さん(現広島市社会福祉協議会会長)と山下弁護士さんです。お忙しい中、同行してくださいました。同時に、広島商工会議所から協賛願い文を頂き大いに助かりました。2017、18年も寄付協賛、プログラム広告願いに精をだしました。寄付金でなく、ハンザ艇を寄付してくださる企業がありました。広島南ロータリークラブ、フマキラー、トータテホールディングス、みづま工房、島屋、グランドハウス、広島大学体育会同窓会、ヤマネホールディングス、広島大学医学部ヨット部OB会、広島大学(体育会ヨット部へ)の皆さんです。結局、企業を訪問した数は100数社を超えました。山根会長自身、協賛していただく企業訪問は荊の道であったろうと思います。「辛いの~、気が重いの~」、訪問する企業のことを考えると、気持ちが鈍ってくるのであります。しかし、大会にはかなりのお金がかかることは事実です。会長は自分自身に聞かせました。「この協賛企業訪問は、私利私欲ではない、世界からやってくる障がい者の人達が広島に来て、本当に良かったと言っていただける素晴らしい大会にするために、お願いしているのだ」と決意を新たにし、訪問を続けました。

しかし、こうして広島の多くの企業・個人の皆さんに協賛してくださったお蔭で、ハンザヨットとはどんなものなのかを知って頂くことができ、ハンザクラスワールドの開会式に多数出席していただくことができました。今までヨット大会で、岸田自由民主党政調会長、知事、県議長、市長、市議長、広島経済界の重鎮の方々が参加されることはありませんでした。この大会は、多くの皆さんにハンザヨットの存在を知って頂きことができたことです。

初回はこのくらいの大会で良いと思っていたことが、だんだんと大きくなり、どんどん大きく化けていき、私たちの気持ちも勿論化けていきました。

日本財団寄贈 ハンザ70艇について

2017年1月21日(公財)日本セーリング連盟新年会が岸記念体育会館で行われました。その席で、井川専務理事と2018ハンザクラスワールド広島開催のアピールをしました。

ハンザ艇を寄付していただき、大会後は全国に配布する旨の話をしました。河野会長、貝道会長は日本財団にお願いに行こうと話が決まりました。2017年4月3日 河野会長、山根会長、日本財団へ訪問、海野常務理事と会談することに。日本財団は障がい者セーリングの普及活動に理解くださいました。10月に、艇は2.3クラス20艇、303クラス50艇、船台70台を申請し、日本財団担当の方と、イベント盛り上げ企画、体験試乗会など普及活動について話し合いました。

2018年2月末に通知あり、3月15日広島県知事に日本財団を訪問して頂きました。

4月、5月 日本財団より購入金額の80%いただき、セイラビリティジャパン西井氏に発注。入荷は3回のコンテナとなりました。第1回は、6月13日303クラス20艇 2回目は7月13日303クラス15艇、2.3クラス10艇 3回目の最後は9月20日 303クラス15艇、2.3クラス10艇の入荷がありました。

 7月29日 日本財団寄贈艇の贈呈式 盛り上げ企画(大前光市、濱田祐太郎)、試乗会など準備は整いましたが、台風12号のため中止となりました。  延期ということで、 10月6日を贈呈式として準備しましたが、台風25号のため2回目も中止となりました。結局、贈呈式はしないままになってしまいました。

参加国20ケ国以上、選手180名以上が目標

前回のオランダ大会では参加国16ケ国、選手131名であったが、参加国20ケ国以上が最大の目標になりました。2017年4月11日 オーストラリア(ジーロング)アジアパシフィック大会にハンザワールドの招請と大会運営視察のため、高橋、沖田、西野、聡美、西井氏が参加し、広島大会に来ていただくようお願いしました。

 参加国を20ケ国以上にするために、クリスさんと奥さんのジャッキーさんに大変お世話になりました。大会ぎりぎりまで参加を呼びかけていただき、24ケ国になったのです。

ジャッキーさんには、ハンザワールドに関し、コンテナ、選手との連絡などいろいろな面で大変お世話になりました。一番の影の功労者です。この方がいるからハンザは続いているのだと思います。

コンテナ輸送が無料となる

大会のため、各国はヨットを持ってこなければいけません、40fのコンテナ輸送です。

しかし、コンテナ輸送には莫大な費用がかかります。参加国数を増やすためにも、コンテナ輸送費用を安くなることは出来ないかと、マツダロジスティックスさんを訪問しました。おそらく世界各地10ケ所から来るとして話を進めましたが、オランダ、イギリス、フランス、オーストラリア、ニュージランド、香港と最終的には6ケ国となりました。

マツダロジスティックスの森畠さんたち4名の皆さんは、毎週木曜日にミーティングを欠かさず行ってくださったお蔭で、大会前にコンテナが到着し大会に間に合いました。

インクルーシブとは

大会3ケ日前のことです。表彰の事で、事務所で話していました。ハンザクラスの艇種にリバティーがあります。一人乗りですが、スポーティタイプです。このリバティー艇のみは、重度の障害を持つ人には、サーボといって帆走補助器具を装備しています。

健常者、自力で帆走できる人は23チーム、サーボの人は11チームの参加でした。そこで、私たちは表彰するのに23チームとサーボの部門に分けてすることにしていました。

それを知った国際ハンザクラスのテリーさんやクリスさんは、それは間違っている。リバティーは1つで行うべきであると主張します。私たちは、ハンディーがあるのだからサーボの人達はサーボで表彰するのが公平だと主張する。彼らは、「なぜサーボの人達を区別するのか、それはインクルーシブではない。健常者も障害のある人も同じレースにでることがインクルーシブである。サーボの人達が一つのレースとして表彰することに決して苦情は言わない。サーボの人達が堂々と入賞することだってある。」私は、言葉ではインクルーシブ社会の実現に貢献したいということを言っているが、全然わかってはいなかったのです。

そのために、ハンザヨットは障害のある人も、健常者も、性別、年齢を問わず、操縦できるヨットだということがわかりました。インクルーシブの神髄に触れることができた。

クリス・ミッチェルさんの「セーリング・フォー・エブリワンの想い」

大会中日、ミッドウイークパーティーでのクリスさんのスピーチです。

ハンザの基本にあるものは、「誰もが楽しめるセーリング」、つまりセーリング・フォー・エブリワン財団(S4E)の精神です。この財団は、レクレーションとしてのセーリング、そして競技としてのセーリングを広めるために存在します。分裂が進む今の世界において、多様性を認める全員参加の世界、インクルーシブな世界を推進したいのです。なぜなら、異なる能力を持つ人々への最高の贈り物は、平等に参加する機会であると、確信しているからです。

 誰もが、何事にも参加できる平等な権利を持っています。インクルーシブであるには、平等に戦う場所と道具が必要です。誰もが、その能力に応じて、自分自身をコントロールし勝負する権利を持っています。自分が楽しいと思うことを追求する時、皆、自主性を持ちます。そして、努力し成功する中で、さらにスキルを向上させ、人生の他の局面でも自信が持てるように、成長するでしょう。このようなことが、どこにつながるのか、断定はできませんが、セーラーたちに、この機会を与えたいのです。

 セーリング・フォー・エブリワンの考え方は、通常のセーリングにも役に立ちます。数あるスポーツの中で、ハンザセーリングは、おそらく真のインクルーシブを実現できる最良のものであり、インクルーシブの新たなイメージを与えるものであると考えます。いずれ、パラリンピックの競技種目に復活することでしょう。断言はできませんが。しかし、私たちは、最良最善の例を示すよう、努力しようではありませんか!」

クリス・ミッチェルさんは、まさに、神から自分に与えられた最良な人生の道として、インクルーシブな世界にするにはハンザが最良な道具だと、真摯に歩んでいます。

このハンザクラスワールド大会が一つの区切りとし、今後のセイラビリティ広島あびの会の活動主体はセーリング・フォー・エブリワンの考えを取り組み、日本各地のセイラビリティと一緒になって、ハンザヨットの世界を広げインクルーシブ社会の実現に貢献していきます。この大会は、『セーリング・フォー・エブリワン』の贈り物をくれたのである。